子供の味覚・嗅覚障害が栄養・摂食行動に及ぼす影響とそのケア
はじめに
子供の味覚や嗅覚の機能は、単に食べ物の味や匂いを感知するだけでなく、栄養状態の維持、安全な食品の選択、そして心身の健やかな成長・発達に深く関わっています。味覚や嗅覚に障害が生じると、これらの機能が損なわれ、様々な課題が生じる可能性があります。特に、成長期にある子供にとって、味覚・嗅覚障害が栄養摂取や摂食行動に与える影響は無視できません。本記事では、子供の味覚・嗅覚障害が栄養・摂食行動にどのように影響するか、そして医療従事者や保護者がどのようにサポートできるかについて解説します。
味覚・嗅覚障害が子供の栄養摂取に及ぼす影響
味覚や嗅覚は食欲を刺激し、食品の安全性を判断する上で重要な感覚です。これらの機能が障害されると、以下のような影響が出ることが考えられます。
- 食欲不振・偏食: 食べ物の味や匂いが分からなかったり、不快な味や匂い(異臭症・異味症)を感じたりすることで、食欲が低下したり、特定の食品を避けたりするようになります。これは、感覚情報の処理がうまくいかないことや、特定の味(甘味、塩味など)を感じにくいこと、または感じすぎることに起因する場合があります。
- 栄養バランスの偏り: 偏食が続くと、特定の栄養素が不足したり、逆に過剰になったりするリスクが高まります。例えば、野菜や魚を避けることでビタミンやミネラル、良質なタンパク質が不足したり、特定の加工食品ばかりを好むことで糖分や塩分の摂取量が増加したりすることがあります。
- 成長への影響: 栄養バランスの偏りや摂取量の不足が長期間続くと、体重増加不良や身長の伸び悩みなど、身体的な成長に影響を与える可能性があります。また、脳の発達に必要な栄養素が不足することも懸念されます。
- 安全性に関わるリスク: 食品の腐敗臭や異臭を感じにくくなることで、知らずに傷んだ食品を口にしてしまうリスクが高まる可能性があります。また、危険な化学物質の匂いを認識できないこともリスクとなり得ます。
味覚・嗅覚障害が子供の摂食行動や心理面に及ぼす影響
味覚・嗅覚障害は、栄養摂取だけでなく、食事に関わる行動や心理面にも影響を与えます。
- 摂食行動の困難: 食事の時間が楽しくない、食べること自体が苦痛に感じられるなど、摂食に対する消極的な態度が見られることがあります。新しい食べ物に対する強い抵抗(ネオフォビア)が悪化する場合もあります。
- 家族や社会との関わり: 家族や友人と同じものを楽しんで食べる経験が難しくなることで、食事を通じたコミュニケーションや社会的なつながりから孤立感を感じることがあります。学校給食の時間が苦痛になるなど、社会生活にも影響が及ぶ可能性があります。
- 心理的なストレス: 食事に関する問題は、子供だけでなく保護者にとっても大きなストレスとなります。「なぜ食べてくれないのか」「栄養は足りているのか」といった不安は、親子関係にも影響を与える可能性があります。
医療従事者・保護者ができる具体的なケアと支援
子供の味覚・嗅覚障害による栄養・摂食の課題に対しては、多角的なアプローチが必要です。
1. 正確な評価と理解
まず、味覚・嗅覚障害の程度や種類(例:低下、喪失、異味/異臭症)を正確に評価することが重要です。子供の場合、大人に比べて症状を言葉で表現するのが難しいため、日頃の食事の様子、特定の食品への反応、食事中の行動などを注意深く観察することが診断や支援の第一歩となります。医療機関での精密な検査(例:味覚検査、嗅覚検査)に加え、保護者からの詳細な聞き取りが不可欠です。
2. 栄養指導・相談
管理栄養士と連携し、子供の嗜好や食べられる食品の種類に合わせて、必要な栄養素を摂取するための具体的な方法を提案します。
- 食べられる食品を活かす: 子供が比較的抵抗なく食べられる食品を中心に、不足しがちな栄養素を補えるような調理法や組み合わせを検討します。
- 栄養補助食品の活用: 必要に応じて、医師や管理栄養士の指導のもと、子供向けの栄養補助食品や強化食品(例:栄養強化された牛乳、ふりかけなど)の活用を検討します。
- 調理の工夫: 匂いや味を強く感じすぎる場合は薄味にする、逆に感じにくい場合は香りを引き出す調理法やスパイスを少量使うなど、子供の状態に合わせた工夫が必要です。食感や温度など、味覚・嗅覚以外の感覚も活用することを推奨します。
3. 摂食のサポート
無理強いせず、子供が安心できる環境で食事を楽しむことを目指します。
- ポジティブな雰囲気作り: 食事の時間は楽しいものであるという経験を積めるよう、プレッシャーをかけずに穏やかな雰囲気を作ることが大切です。
- 五感を活用したアプローチ: 味や匂いが分かりにくくても、見た目の彩り、食感、音(噛む音など)など、他の感覚を刺激することで食事への興味を引き出す試みも有効です。
- 少量から試す: 新しい食品に挑戦する際は、少量から始め、食べられたら褒めるなど、成功体験を積み重ねることが自信につながります。
- 専門家との連携: 摂食に強い困難がある場合や、口腔機能に課題が見られる場合は、言語聴覚士や摂食指導の専門家と連携し、より専門的なアプローチを検討します。
4. 心理的・社会的なサポート
子供自身が味覚・嗅覚障害を理解し、向き合っていくための心理的なサポートも重要です。また、学校の先生や周囲の人々に味覚・嗅覚障害について理解してもらい、食事に関する配慮やサポートを得られるように働きかけることも大切です。保護者への精神的なサポートも忘れずに行う必要があります。
5. 成長・発達のモニタリング
定期的に体重や身長を測定し、栄養状態や成長曲線を確認します。また、運動能力や認知機能など、全体的な発達状況も継続的に観察し、必要に応じて早期に介入できるよう留意します。
まとめ
子供の味覚・嗅覚障害は、栄養摂取や摂食行動に多大な影響を及ぼし、身体的・精神的な成長・発達に関わる重要な課題です。しかし、適切な評価に基づいた、栄養指導、摂食サポート、心理的・社会的なサポートを包括的に行うことで、子供たちの健やかな成長を支援することが可能です。医療従事者と保護者が密に連携し、子供一人ひとりの状態に合わせたきめ細やかなケアを提供していくことが求められます。